はい。そして御馳走になって来ました。」
「それはよかった。まあ身体でも拭いて来るがいい。」
その時表の方の縁側で何か音がした。それをきくと田原さんは俄に陰欝な顔をして立ち上った。
良助はただわけもなく田原さんの後について行った。
徳蔵は上半身を起してぽかんとして縁側に腰掛けていた。
「どうだ気分は!」と田原さんは苛ら苛らしたような調子で尋ねた。
徳蔵はふり返って田原さんを見ると、急に二三度お辞儀をした。
「どうだ気分は?」と田原さんはまた尋ねた。
「いえもうすっかりいいんです。なにその一寸……。」
徳蔵はふと言葉を切って何やら考えていたが、それがどうしても思い出せない風であった。
「冷めたいのを一杯飲まないか。その方が頭がはっきりしていいよ。」
それをきくと徳蔵は急に眼を瞬いた。そして縁側から離れて立ち上った。凡てが漸く記憶に甦ってきたらしかった。
「いや旦那、もう御免被ります。この上やったら死んじゃいまさあ。いや豪い目に逢いましたよ。身体中がぎらぎら燃え出しちまったんですよ。真紅に燃える奴あ平気ですがね、ぎらぎら燃える奴ときたらかないませんや。頭にがーんときたんですよ。眼
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