傍点]子に怒鳴った。
然し徳蔵はすぐにまた燗をするのを止めさした。そして冷酒のままそれを餉台の上に置いた。
「お前は、」と彼は良助の方へ向いて云った、「学校があるんだったな。ゆっくりしちゃいけねえんだろう。いいから早く此処へ来な。これは祝いの酒だ。特待生になったんだね。一杯飲むがいい。景気をつけなくちゃいけねえ。さあ一杯飲みなったら……。」
「僕は酒は飲めないんだよ。」と良助は答えた。
「なに飲めない?……ああそうか。学校へ行ってるうちは飲まないがいいや。脳に悪いんだな。では※[#「魚+昜」、164−上−21]でも食うがいい。※[#「魚+昜」、164−上−21]は目出度え肴なんだ。おいみよ[#「みよ」に傍点]、お前も食えよ。」
良助はそれで※[#「魚+昜」、164−上−23]をつまんだ。徳蔵は、冷酒を貪るようにして飲んだ。
やがて良助は云い出した。
「父さんは毎晩酒を飲むのかい。」
「馬鹿なことを云っちゃいけねえ。飲みてえのは毎晩飲みてえんだが、誰も飲ましてくれねえやね。」
「でもよく飲むんだろう。」
「当り前だ。酒も飲めなくなったら世の中はおしまいだ。」
「だが旦那様もそう云っ
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