見ると口をぼんやりうち開いたまま、じっと良助の顔を見つめた。
「それはね、」と良助は云った、「旦那様が僕に下すったんだよ。学校で特待生になったからその褒美に下すったんだ。そして、お前がいる時は金は家で出してやるからこれは父さんの所へ持ってゆけと云われたので、持って来た。父さんの自由に使っていいんだよ。」
徳蔵は暫く何とも云わなかったが、突然大きい声を出して云った。
「偉い!」
それから彼は急にその紙幣を一枚みよ[#「みよ」に傍点]子の前に投り出した。
「みよ[#「みよ」に傍点]、すぐに酒を一升買ってこい。いいか一升だよ。それから※[#「魚+昜」、163−下−11]を二枚。分ったか。早くするんだ、駈けて行ってくるんだぞ。」
みよ[#「みよ」に傍点]子は云わるるままに急いで表にかけ出していった。
みよ[#「みよ」に傍点]子が出て行った後に、徳蔵は一寸何やら考えるような風で首を傾げていたが、自分と自分の心に向って云うかのように口を開いた。
「偉い。お前《めえ》が特待生になったんだと。それで旦那がお前に褒美の金をくれた。なるほど。金は家で出してやる。これは親父の所へ持ってゆけ……。さす
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