として一半の責は負わなければならない。で秘密に調査をしてくれないかね。僕よりも君の方が店の内情に通じていると思うから君に頼むんだが……。」
 広田は黙って考えていた。
「どうだろう?」と田原さんはまた云った。
「然し店の者にむやみに疑をかけるわけにもゆきませんし……。」
 広田は当惑そうであった。
「そうだ、他人に疑をかけるのは悪いことだ。だから秘密にそれとなく調べてくれ給え。」
 それから田原さんは会計の原口を呼んで、暫く事件を秘密にするように頼んだ。物品の不足を知っているのは田原さんと広田と原口とだけだった。
 それから一週間たった。然し犯人に就いては何の手掛りもなかった。
 或時原口は田原さんの方へ伺った。そしてこんなことを云った。
「余りに人を信用されるといけませんです。犯人は意外の所に在るのかも分りませんから。」
 田原さんは、首を垂れて何やら考え込んでいるらしい原口の方をじっと眺めた。そして云った。
「ああ宜しい。君もよく注意してくれ給え。私《わし》の方でもそれとなく注意はしているんだから。」
 実直な老人の原口は何やら物足りなそうにして帰っていった。
 それから数日後のこ
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