んと膝を折って坐った。それから店からの返書を差出した。田原さんがそれを読んでいる間じっと控えていた。
「やあ御苦労だった。」と云って田原さんは返書を巻き収めた。
「もう用はないから階下《した》へ行って勉強するがいい。」
「はい遅くなってすみませんでした。」
「なに遅くなってもかまわないんだが、何だか今日はいつもより手間取ったようだね。家へでも廻ったのか。」
「いえ、広田さんが店に居られなかったものですから。」そう云って良助は、広田さんが店に居なかったので、自宅に尋ねてゆき、また連れ立って店まで帰って来たことを報告した。広田さんと云うのは、店の方を殆んど預っている主任店員だった。終りに良助はこうつけ加えた。
「広田さんも子供が多かったりなんかで、種々家の方に用事もあられますようです。それでも止むを得ない用の外は、いつも晩まで店に居られますそうですが、丁度今日はお出にならない所に行き合わせましたから、遅くなりました。」
 田原さんは口元に笑みを浮べながら、良助のませた言葉をきいていた。そして彼の心に喜ばしかったものは、良助の「善意の解釈」であった。
 重夫は父を以て余りに「善意の解釈」をな
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