田原氏の犯罪
豊島与志雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)重夫《しげお》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)全身|微睡《まどろ》み
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「魚+昜」、163−下−11]
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一
重夫《しげお》は母のしげ[#「しげ」に傍点]子とよく父のことを話し合った。それは、しげ[#「しげ」に傍点]子にとっては寧ろどうでもいい問題であったが、重夫にとっては何かしら気遣わしい、話さないではおれない問題であった。
実際、重夫の父田原弘平は凡てに於て観照家でそして余りに寛大であった。然しそれはいいことであったかも知れない。ただ重夫が気遣わしく思ったのは、物にぶつかってゆく力を欠いだ父のそうした生活態度を通して、父のうちに或る空虚が澱んで来ることであった。其処に眼を向けるのは気味悪くまた恐ろしかった。然し重夫はそうせざるを得なかった。
「この頃お父さんはよく夜中に起き上って庭を散歩なさるではありませんか
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