と、彼女には村で三人ばかりの若者と情交があるらしい。三好屋の二階には、深夜、けちな賭博の集りなどもあるらしいとのこと。
「そろそろ、出かけましょうか。」
 宗吉が投網を肩にかけ、宗太郎が龕燈をさげている。私は竹編みの魚籠を持つ役だ。
 もし不在中に花子が荷物を取りに来たら、困ることになるかも知れないと、私はちらと考えた。お祭りの晩あたりに……と彼女は言った。然し漠然としたことなので、馬鹿正直に待ってるにも及ぶまい。
 ドーン、ドーン、ドンドコドン、ドーン、ドーン……
 かすかに、八幡様の方では太鼓が鳴っていた。道路はほんのり白いが、四辺はもう暮れてしまっていた。
 宗吉の家は小高い台地の上にある。だらだら坂を降りると、稲田の匂いが夜気にこもっている。路傍の雑草にはまだ露はおりていない。その田圃道を無言で五六町行くと、大きな堤防に出る。堤防の向うが広い河原で、清い水が瀬を作り淀みを作ってうねうねと流れている。
 水の浅い岸辺や、流れのゆるやかな瀬に、夕方から、川魚は餌をあさりに出ている。それに投網をかぶせるのである。
 宗吉が相図をすると、私と宗太郎はそこの河原に立ち止る。宗吉は一人すた
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