、宗吉は自慢だった。実は、そんなこと自慢にも当らないほど、宗吉の家は村きっての大家であり、宗吉は一番のインテリなのだ。
 ただ一つ、私には気懸りなことがあった。三好屋の花子から預かってる荷物だ。細引で結えた小さな柳甲李で、それが押入の隅に転がっている。
 真昼間、農村では最も人目に怪しまれない時間だが、花子はその小さな甲李をいきなり私のところに持ち込んで来た。
「先生、」彼女は思いつめたように言う。「これを預かっておいて下さい。」
 否も応もなく、押しつけてしまうのだ。私は少し困った。第一、宗吉のところのこの隠居所に滞在するのも、あと僅かな日数の予定である。
「暫くの間で、よろしいんです。八幡様のお祭りの晩あたり、頂きに来ますから。」
 私がお祭りの集いには行かず家に籠ってるだろうと、彼女は見通したのであろう。
「先生なら安心です。甲李をあけて中を御覧なさることもないでしょうし、甲李のことをひとにお話しなさることもないでしょう。秘密にしといて下さい。村の人たちは、誰も、信用が出来ません。」
 よそから来た「先生」が、一番信用出来るというのであろうか。
 私は彼女とさほど懇意ではない。三
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