だしました。
三
子供たちはおもしろがって、その話を村の大人《おとな》たちにしました。大人たちの方では、そんなことがあるものかと思って、初めは本当にしませんでしたが、子供たちが皆本当だといいますし、見馴《みな》れない子供が出て消えたことなどを聞くと、そのままうっちゃってもおかれないと思い始めました。なぜなら、それを悪い鬼《おに》のせいだと考えたのです。
「それは悪い鬼にちがいない。悪い鬼がやって来て、子供をさらってゆくつもりで、初めはまずそんなふうに、子供をだまかしてるんだ」
「そんなことはないよ。もし鬼だったら、おもしろい鬼だよ」
そう子供たちはいい張りましたが、大人たちはききませんでした。そして鬼退治《おにたいじ》を始めることに相談をきめました。
子供たちは悲しくなりました。けれど、大人たちがむりにいうものですから、仕方《しかた》なしに例のところへ行って、「だるまさん」を始めました。
大人たちは、そうして子供たちを遊ばしといて、自分たちの方は、まだ鉄砲のない頃でしたから、弓や石投機械《いしなげきかい》や刀や棒など、てんでに何か武器を持って、森の木の陰や村の家の陰なんかに隠れて、今に鬼が出て来たら、打ち殺すかしばりあげるかしてやろうと、じっと待ちかまえました。
子供たちは、いやでいやでたまりませんでした。あんなおもしろい鬼を悪い鬼だなどと言って大人たちがそれを待ち伏《ぶ》せしているのが、気になってしようがありませんでした。それでも大人《おとな》たちのいいつけですから、どうすることも出来ないで、心ならずもにらめっこをしました。だけど、もう笑うものなんかあまりなくて、長くにらめっこをしていると、笑うかわりに泣き出すものさえありました。
するうちに、だんだん子供たちはやけになってきました。みんな立ち上がって、輪になってぐるぐる廻りながら、大声にどなりました。
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だるまさん、だるまさん、
にらめっこしましょう、
わらうとぬかす、
一二三……うむ。
[#ここで字下げ終わり]
うむ……と気張《きば》って、立ち止まってにらめっこをします。が誰も笑い出すものがありません。でまたぐるぐる踊り廻って、「だるまさん、だるまさん」をくり返します。そのちょうしが次第《しだい》に早くなって、もう踊りっこをしているのか、にらめっこをしてい
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