り》をいくつも並べ、ろうそくを何本もともして、天狗が来るのを待ち受けました。
 しばらくたちますと、例の不思議なことが起こりました。雨戸《あまど》もすっかり閉め切ってあるのに、家の中に強い風が起こって、ろうそくの火が皆一度に消えて、まっ暗となりました。爺《じい》さんはそれを待ち構《かま》えていたのです。すぐに大きな声で言いました。
「天狗《てんぐ》さん、いよいよ来ましたね。私はあなたが好きで、この通りごちそうして待っていましたよ。どうかさらって行かないで、ここで食べていってくれませんか。私はあなたが大好きだから、一緒に一杯やりたいと思って、酒まで買っておきましたよ」
「本当か?」とだしぬけに、どら声が闇の中から響きました。
「本当ですとも、本当ですとも」と爺さんは大喜びをして答え返しました。「私は決してあなたに悪いことをしようなどと、そんな考えを持ってやしませんよ。私はあなたみたいな人が好きですよ。大変なごちそうをこしらえてお待ちしてたんです。一緒に飲んだり食ったり歌ったりしましょうよ。まあお待ちなさい。私はまっ暗な中では眼が見えませんから今ろうそくをつけます」
 爺さんは急いでろうそくに火をつけました。そしてひょいと見ると、まごうかたなき大天狗が眼の前に立ってるではありませんか。頭に兜巾《ときん》をかぶり、緋《ひ》の衣《ころも》をつけ、手に羽うちわを持って、白い髯《ひげ》の生えかぶさった赤い顔に、高い鼻をうごめかし、金色の眼を光らして、にこにこ笑っているのです。爺さんはその威光《いこう》に打たれて、平伏《へいふく》してしまいました。
「お前は感心な奴だ」と大天狗は言いました。「酒までたくさんそろええて[#「そろええて」はママ]くれた志《こころざし》に免《めん》じて、今晩はお前の家で酒盛《さかも》りをするとしよう」
 その言葉を聞いて、爺さんは元気づいてきました。そしてこの猩々爺《しょうじょうじい》さんと大天狗とは、夜通し酒盛りをすることになりました。
 爺《じい》さんは猩々《しょうじょう》とあだ名されてるくらいの酒のみですし、天狗《てんぐ》はまた名高い酒好きなものですから、ちょうどいい相手でした。けれどそのうちに、二人とも酔っぱらってきました。天狗を酔いつぶさせるために爺さんが苦心してこしらえた料理ですから、豚肉の串焼《くしやき》の中にも、雉《きじ》の肝《きも》の揚物《あげもの》の中にも、鯉《こい》の丸煮《まるに》の中にも、その他いろんな見事な料理の中には、みな強い酒がまぜてありましたし、それを食べながら、さらに大きな杯《さかずき》でがぶがぶ飲んだものですから、二人が酔っぱらうのも無理はありません。爺さんは、自分から浮かれだしてきて、歌をうたい始めました。

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酒をとうべて、たべ酔うて、とうとこりんぞや、もうでくる、なよろぼいそ、もうでくる、タンナ、タンヤ、タリヤランナ、タリチリラ。
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 すると大天狗は、緋《ひ》の衣《ころも》の裾《すそ》をからげ、羽うちわで拍子《ひょうし》を取り、おもしろい足取りで、踊り出しました。
 そういうふうにして夜遅くまで酒盛《さかも》りをしてるうちに、とうとう二人は酔いつぶれて、そこにぐっすり眠ってしまいました……。
 夜明け近くになった頃、爺さんは喉《のど》が渇いてきて、眼を覚ましました。見ると、大きな天狗が、赤い顔をなおまっ赤にし、高い鼻の穴をふくらましていびきをかきながら、自分の側にぐったりと眠ってるではありませんか。爺さんはびっくりして飛び起きました。そしてしばらく首をひねって考えているうちに、昨晩からのことを思い出しました。天狗《てんぐ》を酔いつぶさして引っ捕《とら》えるつもりだったのが、自分の方も酔っぱらって、天狗と一緒に眠ってしまったのでした。それでも、天狗より先に眼を覚ましたのは幸いでした。
 爺《じい》さんはそっと立ち上がって、太い縄を持って来て、まだ眠っている天狗を、いきなり縛り上げてしまいました。大天狗は眼を覚まして、自分の縛られてるのに気づきましたが、もうどうにも出来ませんでした。ただ眼を白黒さしてるばかりでした。爺さんはそれを見て嘲笑《あざわら》いました。
「天狗の馬鹿やい、とうとう捕《つか》まったろう! 今まで村の者のごちそうをたくさんさらっていったから、その罰だと思うがいい。これから村の人達の前に引き出してやるから、おとなしくしておれ。もうこうなったら、どうにも仕方《しかた》あるまい!」
 それを聞くと、天狗はびっくりして身をもがきましたが、手足を太い縄で縛られてる上に、大事な羽うちわを向こうに取落としてるのですから、何ともいたし方はありませんでした。そしてしまいには、豆のような涙をぼろぼろこぼしました。泣きながら頼みま
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