揚物《あげもの》の中にも、鯉《こい》の丸煮《まるに》の中にも、その他いろんな見事な料理の中には、みな強い酒がまぜてありましたし、それを食べながら、さらに大きな杯《さかずき》でがぶがぶ飲んだものですから、二人が酔っぱらうのも無理はありません。爺さんは、自分から浮かれだしてきて、歌をうたい始めました。
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酒をとうべて、たべ酔うて、とうとこりんぞや、もうでくる、なよろぼいそ、もうでくる、タンナ、タンヤ、タリヤランナ、タリチリラ。
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すると大天狗は、緋《ひ》の衣《ころも》の裾《すそ》をからげ、羽うちわで拍子《ひょうし》を取り、おもしろい足取りで、踊り出しました。
そういうふうにして夜遅くまで酒盛《さかも》りをしてるうちに、とうとう二人は酔いつぶれて、そこにぐっすり眠ってしまいました……。
夜明け近くになった頃、爺さんは喉《のど》が渇いてきて、眼を覚ましました。見ると、大きな天狗が、赤い顔をなおまっ赤にし、高い鼻の穴をふくらましていびきをかきながら、自分の側にぐったりと眠ってるではありませんか。爺さんはびっくりして飛び起きました。そしてしばらく首をひねって考えているうちに、昨晩からのことを思い出しました。天狗《てんぐ》を酔いつぶさして引っ捕《とら》えるつもりだったのが、自分の方も酔っぱらって、天狗と一緒に眠ってしまったのでした。それでも、天狗より先に眼を覚ましたのは幸いでした。
爺《じい》さんはそっと立ち上がって、太い縄を持って来て、まだ眠っている天狗を、いきなり縛り上げてしまいました。大天狗は眼を覚まして、自分の縛られてるのに気づきましたが、もうどうにも出来ませんでした。ただ眼を白黒さしてるばかりでした。爺さんはそれを見て嘲笑《あざわら》いました。
「天狗の馬鹿やい、とうとう捕《つか》まったろう! 今まで村の者のごちそうをたくさんさらっていったから、その罰だと思うがいい。これから村の人達の前に引き出してやるから、おとなしくしておれ。もうこうなったら、どうにも仕方《しかた》あるまい!」
それを聞くと、天狗はびっくりして身をもがきましたが、手足を太い縄で縛られてる上に、大事な羽うちわを向こうに取落としてるのですから、何ともいたし方はありませんでした。そしてしまいには、豆のような涙をぼろぼろこぼしました。泣きながら頼みま
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