思わず大きなあくびを一つしました。それにつれて馬も一緒にはーっと大きなあくびをし始めました。はっと気付いた甚兵衛が、しめた! と叫ぶと同時に、馬の大きな口から、まるまる肥え太った悪魔の子が、ひょいと飛び出してきました。
「甚兵衛さん、長々馬の腹を借りて、ほんとにありがとうございました。お礼のしるしに、これからあなたの黒馬は百倍の力になりますよ」
 ぴょこんと不格好なおじぎをして、傷のなおった尻尾《しっぽ》を打ち振りながら、宙に飛びあがったかと思うまに、悪魔の子はどこへともなく飛び去ってしまいました。
 その後姿を見送って、甚兵衛はあっけにとられてぼんやりしていましたが、ひひんと一声高く馬がいなないたので、初めて我《われ》に返って、馬の頭を撫《な》でてやりながら、あはははと大声に笑い出しました。

 それからというものは、甚兵衛の黒馬は、百人力……百馬力になって、たいそうな働きをしました。世間《せけん》の人達はあきれ返りました。甚兵衛《じんべえ》一人は澄《す》ましたもので、いつも謎のような鼻唄を歌って、街道《かいどう》を往《ゆ》き来しました。

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悪魔《あくま》だか
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