天下一の馬
豊島与志雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)田舎《いなか》の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)親|譲《ゆず》り

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(例)[#ここから2字下げ]
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      一

 ある田舎《いなか》の山里に、甚兵衛《じんべえ》という馬方《うまかた》がいました。至《いた》ってのんき者で、お金がある間はぶらぶら遊んでいまして、お金がなくなると働きます。仕事というのは、山から出る材木を、五里ばかり先の町へ運ぶのです。ぷーんと新しい木の香《かお》りがする丸や四角の材木を、丈夫《じょうぶ》な荷馬車《にばしゃ》に積み上げ、首のまわりに鈴をつけた黒馬にひかして、しゃんしゃんぱっかぱっか……と、朝早くから五里の街道《かいどう》を出かけて、夕方までには家へ帰って来ます。その馬がまた甚兵衛の自慢《じまん》でした。何しろ馬方にとっては、馬が一番大切なものです。甚兵衛は親|譲《ゆず》りの田畑を売り払って、その馬を買い取ったのでした。世に珍しいつやつやとした黒毛の若駒《わかこま》で、背も高く骨組みもたく
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