直だね。大抵の女は、男からこんなことを聞かれると私も死んでしまいますとかなんとか答えるものだ。然し死にはしない。お前は本当のことを云ってくれる。今の僕にはそれが一番嬉しい。」
 信子は俄に頬の筋肉を引きつらして、肩を震わした。彼の言葉から或る残酷な傷を心に受けたかのように、そして自ら訳が分らずに、而も否定の意味でではなしに、激しく頭を振った。それから眼を閉じた。きっと寄せた両の眉根に、痛ましい肉の脹らみがぽつりと出来ていた。
 啓介は驚いてその顔を見つめた。
「どうしたんだ、え?」
 彼女は答えなかった。
「僕が嬉しいと云ったのが悪い?」
「いいえ、いいえ、」と彼女は云った、「そんなことじゃないの。……だって、あんまりですもの……。」
 啓介は漠然と、彼女の感情の動きを理解した。然し彼の心には、或る晴々としたそして痛いような明るみがさしていた。
「余りいろんなことを考えないがいい。」と彼は云った。「お前は長い間の看病に弱りすぎている。……然し真実は貴いものだ。真実を回避しようとしてはいけない。僕の云った本当の意味は、今にお前にも分る。」そして彼は水枕の上に頭を仰向に落付けた。「額の氷を
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