ます。」
山根さんも夢の中でのように云っている。
「いいえ、誓ってはいけません。」
「いえ、誓います。」
「いいえ、誓ってはいけません。」
それが互に嬉しそうなんだ。おれはチェッと舌打ちした。その音が聞えたかどうか、二人は何かはっとした気配《けはい》で、あたりを見廻し、それから顔を見合ったが……ざまあみろ……微笑が凍りついていた。尤も、寒い夜だった。
おれの腑におちないというのは、その翌日からの南さんの一層ひどい憂欝だ。山根さんが云ったように、南さんは理想的な状態にあった筈だ。ただ、山根さんには多少不感症めいたところがあったかも知れないが、然しそれは取るに足りないことだし、南さんにしたところで、ホテルの昨夜、殆んど何にも分らなかったほどだし、とにかく、南さんの憂欝は、ちがった種類のものに相違なかった。そして南さんは、なおひどく酒を飲み、ちょっとおれの手伝いもあるにはあったが、昨夜のようなことになったのだ。
山根さんはどんな様子をしてるだろう、それがおれの興味の中心だった。
然るに、女中は洗濯をしており、正夫は縁側にねころんで色鉛筆で画仙紙をぬりたくっており、そして当の山根さん
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