の方へ、手の中の栗を空高く投げやった。秋の午後の陽に栗の実がきらきらと光った。
 草の中から栗の実を拾ってる子供たちを残して、吉村と李は海岸の方へ降りていった。
「実は、野心がありました。」と李は云うのであった。「僕は水泳がへたです。何事でも、上達して損はないでしょう。それで、水泳も上達したいと思って、ここに、志田さんの奥さんのお許しで、監督に残ったのですが、だめでした。九月のなかばすぎになると、海の水は冷たくて、身体にいけませんね。それで、水泳より山にいって、栗を取る方が面白くなり、木登りは上手になりました。」
「木登りも、その、野心の一つかい。」
「あとで、そうなりました。」
 そして李も笑ったが、ふいに、うまい柿を御馳走するし、紹介する人もあるから、是非ついて来いと云い出した。
「柿はいいが、紹介の方は許してくれよ。僕は仕事に来てるんだからね。」
「ええ、分っています。綺麗な女の人ですよ。先生に逢いたがっていました。」
 独りで勝手に呑みこんでいるのである。吉村と其他で逢ったのはその日が初めてだし、逢いたがってるもないものだ、恐らくは李が好きな女ででもあろうかと、吉村はすぐに小説家らしい想像をしながら、苦笑をもらした。
 半農半漁の人家の聚落の間をぬけて、もはやどこもひっそりとしてる別荘地の方へはいり、その出外れ近いところで、李は足を止めて云った。
「ちょっと待って下さい。……困ったなあ。」
「どうしたんだい。」
「先生、裏からはいるんですよ。」
「同じじゃないか。別荘なら、裏も表も大してちがやしないよ。」
「そうだった。全くそうです。」
 いやに感心して、また歩き出したが、すぐその先の、四つ目垣の木戸を押しあけてはいって行くのである。
 吉村はおや、と目を見張った。志田さんとかの別荘へ行くものだと思っていたのであるが、そこはたしかに、上山君枝の家の裏手にちがいなかった。垣根の中のすぐそこに、低く枝を拡げた二本の柿の木が、赤い実を一杯つけていた。李はその柿の木に歩み寄り、手の届く枝を引き撓めておいて、物色しながら幾つかの実をもいだ。
「こちらからいきましょう。」
 柿を持って、表の芝生の庭の方へ廻ってゆくのだった。
 吉村は躊躇しながら、それでも多少の好奇心も覚えて、わざと後れながらついていった。
 縁側で、もう李の声がしていた。
「今日は、私の先生を連れて来
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