、僕は宿屋へ行く本道の側の草原に出てるのだった。霧が晴れて月が明るく輝っていた。顧みると、飛び下りたのはほんの二間ばかりの砂の斜面だった。
 それにしても不思議なのはあの男だ。はっきり口を利いた所を見ると、霧に映った自分の影でもなさそうだったし、また山男という種類のものでもなさそうだった。
 なに、訳の分らない話だって、そうだろうとも、僕自身にだって訳が分らないから。実際田舎の夜道をしてると、訳の分らないことに沢山出逢うものだよ。まだいろいろあるが、君も聞き疲れたろうし、僕も話し疲れたから、もうこれくらいにしておこう。ゆっくり煙草でも吹かそうじゃないか。



底本:「豊島与志雄著作集 第二巻(小説2[#「2」はローマ数字、1−13−22])」未来社
   1965(昭和40)年12月15日第1刷発行
初出:「中央公論」
   1924(大正13)年9月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄
2007年11月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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