どんなことだか、あなたにはお分りになりませんわ。三浦先生は、よく分って下さいまして、いろいろ力になって下さいますの。きっと、わたしたちのために、よいようにはからって下さいますわ。」
 彼女は彼女の真実を言っていました。木原はそれをはっきり感じました。
 ――然し、それならば、俺は犬猫のような結婚を望んでいたのであろうか。いや俺も人間としての自尊心を持っている。ただ、彼女は、彼女一家は、そして三浦さんも、俺とは種族が違うのだ。
 そして何よりも、彼女の言葉の調子が気持ちにひっかかりました。真実を言ってるのではあるが、それが、なにか血の通わない作文みたいに感ぜられるのでした。
 舗装してある通路でしたが、所々に損傷があって、雪解けの水溜りを拵えていました。考えこんで歩いてるうちに、木原はうっかりそこへ踏みこんで、片方のズボンの裾を泥まみれにしました。
「あら……。」
 照子はハンカチを差出しました。木原はそれを受取って、ポケットに納めました。
「これは貰っておきますよ。」
 泥水まみれの足を運んでゆきますと、四辻になりました。その向うの焼け残りのところに、三浦行男の家はありました。木原は四
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