如何でございますか。」
戸の外からお千代の声がはっきりしてきた。湯の加減だったのか。……丁度ぬる加減でよかったが、然し、頭がふらふらしていた。
「丁度いいよ。」
元気よく答えてやったけれど、それだけで、身を動すのも大儀だった。
「床をとっといて下さい、すぐに寝るんだから。」
誰にともなく大きな声で云っておいて、湯殿から飛び出しかけた。が、……茶の間をぬけて寝室の方へ行くのには、母の前を通らなければならなかった。着物を抱えて真裸のままで母の前を……。
そんなこといつだって平気だったんだが……。
ふと、咽せ返るような追想に、足が竦んでしまった。
意気地なしめ、なあに……。
擽ったいような気持で、歯をぎりっと一つやって、猛然と突き進んでいった。
「もう寝むんですか。」
「ええ、頭痛がするんです。」
云いすてて、柱時計の方を見上げながらのっそりと、それでも九時半頃だと見て取っただけで、裸のまま母の前を通りすぎてやった。が次には小走りになった。
大急ぎに寝間着をひっかけて、頭まで布団の中にもぐり込んだ。
とっぷりと水底に沈んだような、落付くところへ落付いた感じだった。そしてそ
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