が二度も消えた。
その時から、祖母の容態が俄に悪くなった。医者が日に何度も来たし、看護婦もやって来た。
三日目の朝、恒夫はいつもの通り学校へ出かけようとすると、祖父の室へ呼びつけられた。祖父と母とが火鉢を挾んで坐っていた。火鉢の縁で長い煙管を、祖父がいつもより強い力ではたいているので、恒夫はただごとでないと感じた。そしておずおずと其処に坐ると、母はいきなり云い出した。
「恒夫さん、家へよく遊びに来る野田という人ね、あの人は小野田茂夫さんじゃありませんか。え……嘘を云わないで、はっきり御返事をなさい。」
恒夫は次第に頭を低く垂れて、唇をかみしめた。
「どうなんです。茂夫さんでしょう。」
「ええ。」と恒夫は答えた。
一寸沈黙が続いた。祖父がまた強く煙管をはたいた。
「それでは、もう何も云いませんから、今日学校が済んだら、すぐに茂夫さんを連れていらっしゃい。……よござんすか。」
「ええ。」
「すぐに連れてくるんだぞ。」と祖父が大きな声で怒鳴った。
恒夫は喫驚して、何にも尋ねることが出来ないで、風に吹き飛ばされる木の葉のようにして出て行った。
母が玄関まで送って来た。
「茂夫さん一
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