湯元の秋
豊島与志雄

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【テキスト中に現れる記号について】

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 私は或る秋の初め、日光の奥の湯元温泉に約二週間ばかり滞在していた。十二月には雪を避けて人は皆麓の方へ下りてゆくという山中なので、日当りのいい傾斜面にはまだ種々な花が咲いているのに、野の草葉はもう霜枯れていた。霜枯れの頃になると、山国の人の心は何かしらしめやかになって、祈願するがような眼を空に向けるものである。そして私も、じっと自分一人の心で、空を流るる雲を見ながら、日々の大部分の時間を過した。
 私は時々散歩に出た。
 然しその散歩は、戸外の空気を吸いたくなって表に飛び出す都会人の散歩ではなかった。室に寝転んで外を見ていると、向うの高山の頂きから雲が現われて静かに大空を流れてゆく、その方向へ大気が動いて、凡てのものが流されてゆくのだ。私もその間に自然に流されるようにして野の間を歩いたのである。
 湯元から二十町ばかり山道を下ると、
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