。勘弁なさい。医者にもかかる。お前も医者にかかれよ。胃袋のなかの、ごっとんごっとんか。」
彼はまた黙りこんで、酒を飲んだ。それから、少し気分がわるいから昼寝をすると言って、布団を敷かした。
「風呂がわいたら起してくれよ。」
八重子は暫くそばについていたが、寝息の音が聞えてきたので、そっと室から出た。
一時間ばかりたった後、風呂がわいたので、八重子は木山を起しにいった。木山は少しく布団から乗り出し、半眼を見開き、片手を畳に投げ出して、もう息絶えていた。
呆気ない最期だった。医者の診断は脳溢血だった。
後になって、八重子は言った。
「怒りの虫にとっつかれたと言うひともありましたが、それにしては、安らかな死に顔でした。」
底本:「豊島与志雄著作集 第五巻(小説5[#「5」はローマ数字、1−13−25]・戯曲)」未来社
1966(昭和41)年11月15日第1刷発行
初出:「群像」
1951(昭和26)年5月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※底本の二重山括弧は、ルビ記号と重複するため、学術記号の「≪」(
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