わ。もう御心配はかけません。わたしはわたし自身で仕末をつけます。」
 木山はふいに叫んだ。
「勝手になさるがいいでしょう。」
 そして立ち上り、室の中をぐるぐる歩き廻った。暴風の前兆は彼の方にあった。頭がくらくらし、やたらに腹が立った。
「僕の気持ちは前に言った通りです。あなたはいつまでも後戻りばかりしている。別れようと僕に言わせたいんでしょう。そんならそれでよろしい。御随意になすって下さい。」
 ぐるぐる歩いて、それから炬燵に半身を入れて仰向きに寝そべった。
≪俺は何を言ってるんだ。肉体に訣別して、そしてなにかしら精神的な愛情を求めて、あっぷあっぷしてるんじゃないか。それがどうして言葉に言い現わせないのか。なぜ率直に彼女に言えないのか。≫
 由美子の手が伸びてきて、彼は引き起された。
「別れるなら別れると、はっきり致しましょう。ふてくされた真似は、わたしいやですわ。」
「僕もいやです。」
「そんなら、どうなんですの。」
「理屈も僕はいやです。同じことを繰り返すのもいやです。あなたと別れるのもいやです。何もかもいやです。僕は自分自身までいやになってるんです。腹を立てさせないで下さい。」
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