ました。御隠居はそのお婆さんを座敷《ざしき》へ通して、大変喜びながら言いました。
「あなたは狸さんですね。約束を守ってほんとによいことをして下さいました。村のお宮が綺麗なのは何よりも気持ちのいいものです。これから長く、村の人達と親《した》しくして下さい」
 老人はすぐに、村中の者を集めました。そして狸のお婆さんを皆に紹介して、一部|始終《しじゅう》のことを話し、八幡様《はちまんさま》を綺麗《きれい》にしたのもこの人だと言ってきかせました。村の人達は、始めはびっくりし、次には大喜びをして、やがてうちとけてしまいました。
 それからは、八幡様が村人の遊び場所となり、昼間皆がたんぼに出ますと、その間|狸《たぬき》が子供達を守《も》りしてくれました。もし狸に仇《あだ》するような獣《けもの》が来ますと、次郎七と五郎八とが鉄砲で打ち取りました。
 毎年一回、秋の月のいい晩に、村中の人が八幡様に集まりまして、酒宴《さかもり》を開きました。それを「狸のお祭」と言いました。男も女も子供も、大勢《おおぜい》の子狸や孫狸と一緒に踊り騒ぎました。御隠居《ごいんきょ》がいろんな唄を歌いますと、それに合わして大きな狸が、腹鼓《はらづつみ》のちょうしを合わせました。

[#ここから2字下げ]
ポンポコ、ポンポコ、ポコポコポン、
ポンポコ、ポンポコ、ポコポコポン。
[#ここで字下げ終わり]



底本:「豊島与志雄童話集」海鳥社
   1990(平成2)年11月27日第1刷発行
入力:kompass
校正:門田裕志、小林繁雄
2006年4月29日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全2ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング