人は鉄砲に弾丸《たま》をこめ始めました。
ところが、その話が聞えたのでしょう、狸は腹鼓をやめて、じろりと二人の方を見下ろしました。そしておかしな手付《てつき》を――いや、狸ですから足付《あしつき》というのでしょうが、それをしますと、急に狸の姿が見えなくなって、後には椋の木の頑丈《がんじょう》な枝が、月の明るい空に黒く浮き出してるきりでした。
次郎七と五郎八とは、またあっけにとられて、夢でもみたような気がしました。それからいまいましそうに舌打《したう》ちをして、弾丸のこもった鉄砲をかついで、帰りかけました。
八幡様《はちまんさま》の森を出て、村の中にはいろうとすると、これはまた意外です、道のまん中にさっきの狸が後足《あとあし》で立って、こちらを手招きしながら踊ってるではありませんか。
次郎七と五郎八とは、黙って合図をして、鉄砲でその狸《たぬき》を狙い、一二三という掛声《かけごえ》と共に、二人一緒に引金を引きました。ズドーンと大きな音がして、狸はばたりと倒れました。二人は時を移さず駆けつけてみますと、これはまたどうでしょう、大きな石が弾丸《たま》に当たって、二つに割れて転がっているのです。
二人はばかばかしいやら口惜《くや》しいやらで、じだんだふんで怒りました。きっと狸に化《ば》かされたに違いないと、そう思いました。そして、是非《ぜひ》とも狸を退治《たいじ》してやろうと相談しました。
二
翌日二人は、八幡様《はちまんさま》の小さな森に出かけて、狸の巣を隈《くま》なく探し廻りました。しかしどこにもそれらしいのは見当りませんでした。けれども、晩にはまた出て来るかも知れないと思って、月が出るのを待って再《ふたた》び行ってみました。
月は前の晩と同じように、綺麗《きれい》に輝いていました。昼間のように遠くまで見渡せました。二人は八幡様の前へ行って、例の椋《むく》の木を見上げました。すると狸はいませんでしたが、たくさんの椋鳥《むくどり》がその枝にとまっていました。
「あいつでも撃ってやれ」と二人は言いました。
そして二人一緒に鉄砲の狙《ねら》いをつけて、打ち放しました。二羽の椋鳥がひらひらと落ちてきました。二人はそれを拾い上げました。それからまた見上げると、他の椋鳥《むくどり》は逃げもしないで、ちゃんと元の枝にとまってるではありませんか。
「晩だか
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