にごしたが、彼はおかまいなしにいろんなことを言う。つまり、借金などというものは多くの相手からなすべきものではなく、出来得れば一人からが一番よい。期限を厳重に守るのは、私のような若い者としては感心の至りである。ついては、会社の給料と万一の場合の退職手当とを担保にするなら、月賦払いにでもして、入用な金額を一纒めにお世話してもよい。京子さんの方にも金がかからなくなったから、月賦払いなら楽だろう。その代り、この節のことだから、月一割ほどの利子は出して貰いたい……。
「まあ考えておきなさいよ。何事も、くよくよするもんじゃありませんさ。」
そして彼は、私の返事も待たずにすっと立ち去ってしまった。
私は変な気がして、長い間、両の手で額を抱えていた。それから突然、腹が立ってきた。あの善良そうな西山が、私のことを何もかも知っていて、恐らくは自分の金を、月に一割で貸しつけようとしてるのだ。
私は直感的に思い当った。ああいう善良さこそ不遜の至りであり、場合によっては、如何なる犯罪をも働き得るのではあるまいか。程良い人間などでは西山は決してない。
私は考えこみながら会社を出、考えこみながら街路を歩いた
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