、僕は結婚もすまいと、心ひそかにちかってるような次第です。今住んでる家が、戦災にもあわずに残ったので、日常に不自由はしませんが、売り払ってよい金目の物もありませんし、あまりひどい筍生活をしても、母に心配をかけて病気に障ってはいけないと、あれやこれや考えて、まったく気が腐ってしまいました。
そういう風に、あとは世間話みたいに流してしまうのである。だが、嘘はあまりない。母の病気というのも本当だ。母は右肺に結核の病竈がある。もう可なりの年配だし、患部は固まっているので、さし当って心配なことはないが、ふだんに警戒を要する。過労や栄養不足は殊に避けなければならない。この母を大切にしたいというのが、私の真意なのである。
斯くて、話の全般に気を配り、多少のゆとりを示し、決して押しつけがましくならないように話をした。
それになお、私は自分の人相についても自信があった。色は白い方だし、眉根は開き、額は広く、殊に鼻がすっきりと高く、自惚れではないが、ノーブルな顔立ちと言って差支えない。私自身の経験から考えても、容貌に卑賤さや卑屈さや凶悪さなどが感ぜられる者には、金を貸す気にはなれないが、そうでない者には、うっかり金を出してやりがちだ。つまり私は、借金をし易い人相に生れついてるのである。
然し、こちらはいくら条件が揃っていても、全然余裕のない相手では仕方がない。これは絶対的なことで、前以て私はひそかに物色しておいた。同じ会社に勤務していれば、多少の余裕があるかどうかの見当ぐらいはつく。
そこで、借金を申し込んだのであるが、たいてい成功した。ただ、金額の点で、一万円が七八千円に値切られたことは往々ある。
有数の大会社なので、同僚も多く、後には私の手に集まった金も十万円に達した。然し、私は返済の期日を後らしたことは決してない。期間を厳守することが、信用を得る基礎なのだ。各個人から秘密に融通して貰ったとは言え、どうかした拍子に、他へ洩れないとは限らない。然し、期限を厳守しておりさえすれば、信用を害うことはない。その上、暫く期間を置いて、同一人から再度の借金も出来るのである。約束の期日になると、私は返済金にピース十個ぐらいは添えた。同僚の仲だし、利息を出そうとしても取りはすまいし、謝礼に煙草十個など、まあ程好いところだろう。
私の見当では、借金の全額はもっと殖すことが出来た。然し十
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