にか深くなって、もうどうにもならないほどお互に愛し合っていた。そのために、可なりの金を使っていた。そこへ、或る義理合から、可なり多額の借金の連帯保証人となっていたのが、本人の歿落のために、すっかり僕へかぶってきた。学校の俸給と僅かな文筆の収入とでは、もうおっつかなくなった。負債の利子さえも払いかねた。そこで、椎の木――月に三四十円の借地料だが――それをも切りつめようとした。
竹山には気の毒だが、仕方がないので、そして彼の母親への立場もあるので、嘘を言って、椎の木の土地に買手がついたらしいから、近いうちにあけ渡さなければならないかも知れないと、それとなく暗示してみた。
竹山の精神は、その暗示にひどく敏感に反応した。そして彼特有の鋭い疑念をこめた眼付で、いろんなことを尋ねはじめた。僕がいい加減にごまかしていると、しまいには彼の方から、椎の木の土地を買おうとしている男が分ったと云いだした。
「原野権太郎という男ですよ。」
僕はあっけにとられた。何処に住んでるどういう男か分らないが、とにかく原野権太郎という男だというのである。彼はそれを後にハラゴンとつづめて云うようになった。
「大事な木
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