ていて、そして表面うすぼんやりしていた。
彼女は男のように腕組みをして、火鉢の上にかぶさりて、じっと考えこんでいた……。
俺は彼女のその瞑想を尊敬して、ただ見守っていてやった。
二時頃だったか、二階から足音がおりてきた。静かな足音だった。片野さんと芳枝さんだ。二人とも黙っていた。芳枝さんは裏口の戸をあけた。
「じゃあ、きっとね。」
「大丈夫。」
だが、片野さんは力なさそうだった。芳枝さんの手を握りしめておいて、外に出るとすぐにうなだれて、考えながら歩いていった。
芳枝さんは戸締りをして、二階に上りかけたが、急に足をとめて、板場の方をすかし見た。そしてちょっと佇んでいたが、つかつかとやって来た。
「そこで、何をしてるの。」
佐代子は立上った。
「何をしてるのさ、今頃まで起きていて。」
佐代子は幽霊でも見る様に、惘然として相手を見ていた。
「ばか、何してたんだよ。」
芳枝さんの細そりした顔が、憤怒に歪んだ。足が震えていた。よろよろと歩みよって、佐代子の頬をひっぱたこうとした。びっくりして俺がその手を遮った、それがいけなかったらしい。彼女は手当り次第にコップをつかんで投げつけ
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