れを禁ずる。平素何等かの機会に充分の付け届けがしてあるのであろう。
芝原氏に街の娼家へ案内を頼むと、娼家の主婦は一同を控室へ慇懃に導き、茶をすすめ、手あきの美女を侍らしてくれる。但し控室より奥へは踏みこんではいけない、茶代を置いてはいけないことも前と同様である。
たまたま、聚豊園などの一流料理店で結婚式が行われる場合、その有様を見たいと思う者は、芝原氏に頼むがよい。招待客しか入れないその広間に、芝原氏は依頼者を案内してくれる。モーニング姿の新郎と白紗を頭からまとった新婦とが相並んでるのへ、四方からテープや切紙を投げかける賑かな室の中で、闖入者たる芝原氏へにこやかな目礼をなす人が多数である。
すべてそれらのことが、何等気持の上の摩擦もなしに自然に行われる。そして芝原氏自身は、同地に妻女を携行せず、一人暮しではあるが、酒を嗜まず、遊里に入らず、粗末な支那服をまとい、巧みな地方語をあやつり、微髯の丸顔に笑みを浮べ、悠然と歩いている。
芝原氏の斯かる存在は、所謂支那浪人などという概念から遠いものである。また杭州市民間の氏の勢力は、氏の背後関係を割引して考えても、宣撫工作などで得らるるの
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