。」云ってしまうと胸が痛んだ。
「宜しい。」
 それから暫く言葉が途切れた。がやがて中西はこう云い出した。
「僕は簡単にいう。……君達が劇薬を飲んで倒れている所を婆さんが発見したのだ。そして驚いて家の中を駆け廻っている所に僕が帰って来た。……僕はすぐに医者の許へ飛んで行った。医者はすぐに来た。然しもうだいぶ時間がたっていた。どうにも仕様が無かった。然し君の方には見込みがあると医者は云った。後できくと君は飲んだ分量が少かったのだ。然しその時は殆んど見当がつかなかった。慶子さんの方はもう到底駄目だった。それでも二人共手当はした。夜明けになって君は眼を開いた、何かしきりに云っていたが、言葉は聞き取れなかった。神経が麻痺していたのだ。それから昏睡状態が続いた。ジガーレンを二度注射した。夕方君はまた眼を開いた。然し医者は今覚してはいけないといった。脳を気遣ったのだ。モヒを注射した。そして先刻から君は本当に覚めたのだ。」
 敬助は黙ってその言葉を聞いていた。
「……慶子さんの方は助からなかった。僕は変事を知らしてやった。親父さんと兄さんとがやって来てくれた。せめて君の方だけでも助けてくれと兄さんが
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