に滑り転んだかも知れない。
「おかしな年寄りですね。」
森田が微笑している。俺は指先で頭に渦巻きを描いてみせた。
俺だって頭が少し変梃だ。強烈な酒でもほしい。マダム・ペンギンのところか、京子のところか……それも今は億劫だし、遼子のところへはちと行きにくい。高木老人のおかげで、沖繩の海も見失ってしまった心地だ。森田が拵えてくれる怪しげなカクテルを飲むことにする。
体も意識も、ふらふらと、明滅する感じだ。
森田が戸外まで送って出て、空を仰ぐ。
「あしたも、天気らしいな。」
独語には、俺は返事をしないことにきめている。第一、天気模様なんかどうだっていいじゃないか。
手っ取り早く、輪タクだ。
体がはいるだけの空間の、その幌の中は、別天地だ。蛸坊主からも脅かされず、沖繩の海からも誘なわれず、俺はうとうとと居眠る。そして夢を見た。
両側に欄干のある、橋らしい大道だ。はっきりした橋ではないが、橋のようでもある。その両方の欄干に沿って、二人の女が歩いている。そぞろ歩きのように、ゆっくりゆっくり歩いてゆく。欄干のつきるところまで行って、左側の女がくるりと振り向き、右側の女もくるりと振り向
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