蔵の二階
豊島与志雄
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【テキスト中に現れる記号について】
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(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)小説4[#「4」はローマ数字、1−13−24]
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焼跡の中に、土蔵が一つある。この土蔵も、戦災の焔をかぶったので、ずいぶん破損している。上塗りの壁土は殆んど剥落して、中塗りの赤土や繩が露出し、屋根瓦も満足でなく、ひょろ長い雑草が生えて風にそよいでいる。二階の窓には、錆び捩れた鉄格子がついていて、その外側に白木の小さな庇が取り附けてあるので、一層さびれて見える。中は薄暗いらしく、昼間でもぽつりと電灯がともってることが多い。窓の鉄格子からは、時折、年老いた女の白い顔が、ぼんやり外を眺めている。一階の入口の鉄扉は、さすがに頑丈で、天気のよい日はすっかり開け放たれ、その南向きの石段の上で、小さな男の子が二人、おとなしく遊んでいたりする。――戦後、この土蔵の内部が改造されて住宅にされているのだ。
この辺は、もともと、住宅街で、復興も後れている。道路に沿って、新築の店屋が少しくあるきり
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