だが、同じ年頃で、元から仲はよかった。
私は室を使われるのが嫌だったが、断るわけにもいかず、女中にそう言って、酒や肴を運ばせた。
「日本酒は、一々お燗するのが面倒でしょう。だから、ビールとウイスキーにしたわ。」
「アルコール分さえあれば、何でも結構。美佐ちゃんも、ここで何か食べろよ、あっち行ったって、面白いことはないだろう。」
「ここだって、面白いことはなさそうね。」
「その代り、ビールを飲ませてやろう。」
兄とは十歳あまりも年が違うので、私の方でも兄には親しめなかったし、兄の方でも私を無視していた。ところが、祖母が亡くなってから急に、なんだか調子が変ってきた。兄ばかりではなく、両親たち、それから知人たち、みんなから私は横目でちらりちらりと見られてるような気がした。祖母がふうわりと私を包んでくれていたその薄衣が、剥ぎ取られて、私の存在がはっきりしてき、暗がりの中にいた私が俄に脚光を浴びたような工合だった。祖母はほんとに私を可愛がってくれた。私はほんとに祖母に甘えていた。その祖母が亡くなってみると、私はへんに肌寒いのだ。
私がそのような感懐に耽っていると、兄と利光さんは、葬儀の形式
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