た。父にも母にも尋ねかねた。
しまいに私は、祖母に打ち明けてみることにした。小さい時から私は、祖母に一番甘ったれていたし、祖母には何でも打ち明けられたし、祖母も私を一番可愛がっていた。けれど今、祖母は重い病気で寝ている。悪いことだけれど、折を窺わねばならなかった。
看護婦がお風呂にはいっており、病室には他に誰もいず、そして祖母の気分もよさそうな時、私は言い出してみた。
「お祖母さま、あたしね、面白い話を考えついたのよ。」
祖母は弱々しい微笑を浮べた。
「どんなこと。話してごらんなさい。」
「あたしが考え出したのか、何かで読んだのか、それは分らないけれど……。」
私はへんに頬が熱くなる思いだった。それを押し切って、のっぺらぽうの顔の話をした。やはり男と女のことにはしたが、愛し合ってるということは省いた。
祖母はかすかに頷きながら聞いてくれたが、話がすんでも何とも言わなかった。
「ね、お祖母さま、こんな話、どこかでお聞きなすったことありませんの。」
祖母は頭を振って、天井の方へ眼をやっていたが、暫くして言った。
「あんたが拵えたのでないとすると、そのお話は、日本のものより、西洋のものらしいね。それとも、あんたが拵えたの。」
祖母は私の方へ顔を向けて、私をしげしげと見た。私は気恥しくなって、言い直した。
「分ったわ。やっぱり、あたしが拵え出した話じゃないの。その証拠には、ね、お祖母さま……。」
私はとうとう、窓にさした物影、のっぺらぽうの顔のことを、打ち明けてしまった。
祖母はちらと眉根を寄せて、溜息をつくように言った。
「そんなのは、いけないよ。」
それから、また天井の方へ眼をやった。
「のっぺらぽうのことなんか、忘れてしまいなさい。そのお話、だいたい、理屈っぽいよ。のっぺらぽうよりか、一つ目小僧とか、三つ目小僧とかの方が、愛嬌があっていい。一つ目小僧や三つ目小僧のお話なら、いくらもあるでしょう。楽しいことを考えるんだよ。気持ちをらくに持ちなさい。そうでなくても、あんた、神経が少しくたぶれてるからね。あたしのことにいろいろ気を使って、看護婦よりもよく世話してくれるものね。あ、そうそう、約束してあげましょう。のっぺらぽうのことなんか忘れてしまったら、そしたら、わたしが亡くなったあと、あの窓の硝子に、わたしのにこにこしてる顔を映してみせるよ。待っといで、きっとそうしてみせるから。その代り、気味わるいことなんか忘れてしまうんだよ。」
私は涙ぐんでしまった。
「いや、いやよ、そんなこと仰言っちゃ。」
祖母は腑に落ちない風だった。
「なにが、いやなの。」
「亡くなるなんて、そんなこといや。いいえ、きっとお癒りになるわ。お癒ししてみせるわ。あたし、学校を休んでも、どんなことしてでも、きっとお癒しするわ。」
私は顔を伏せてすすり泣いた。
「でもねえ、人にはその人の寿命というものがあるからね。」
祖母はもう覚悟していたのであろう。七十五歳の高齢で、そして老衰病だった。それから十日とたたないうちに、安らかに息を引き取ったのである。
祖母の衰弱が甚しくなると、私は気が気でなかった。学校も休んで看病の手伝いをした。兄は毎日会社に出かけたし、父もたいてい出かけた。母は見舞客の応対や家事のことに忙しく、女中も多忙だった。看護婦だけでは手が廻りかね、私は病室につきっきりのことが多かった。
そして私は、のっぺらぽうの方へあまり気を取られずにすんだ。その上、極力それを忘れようと勉めた。けれど、変なことが起った。
自分の室で、髪を直したり、着物を着換えたり、一休みしたりするような時、ふと窓の方を顧みて、はっとすることがあった。その窓の磨硝子に、何か物影がさしてるのである。何物とも知れぬこともあり、自分の姿だと分ることもあり、のっぺらぽうが自分の姿に重ってると思われることもあった。たいてい、うっかりしてる油断の隙間にそれが現われて、すぐに消えた。私は自宅では和服のことが多かったし、忙しくなると着物を衣紋竹に掛けておくこともよくあったが、その自分の着物までが気味わるく思われて、出来るだけたたんでおくことにした。衣紋竹の着物が窓硝子に映るわけでもなかったが、用心しなければいけないという気持ちだった。
祖母が亡くなってからは、そういう気持ちが一層嵩じた。
祖母の死から、私は心身に直接の打撃を受けた。嘗て姉が病死したことがあるが、まだ私は幼く、大して深い感銘は受けなかった。祖母の死に接しては、身にも心にも、大きな穴があいた感じだった。
身内にあいたその穴の方へ、私の思いは引きずり込まれがちだった。そしてぼんやりした空虚な時間がまま起った。そのような時、室の窓硝子に何かの影が現われ、すぐ消えはしたが、はっと私を驚かした。
他人は気付
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