嫌だと言う。どこか遠くへ持って行ってくれよ。」
おれは首垂れてしまった。初めは意外だったが、その意外が意外でなくなり、北川さんや梅子さんの気持ちが、おれの中にもはっきり伝わってきた。
「分りました。」
おれはそれだけ言って、くるりと向きを変え、梅の木を眺める風をした。そして眼を手の甲でこすった。涙が出てきてこらえきれなかった。
なんで悲しいのか、おれにもよく分らなかったが、胸がつまって涙が出るんだ。梅子さんがあまり美しかったからだろうか。春先の感傷のせいだろうか。
おれはそこらを歩きまわって涙をごまかした。それから、梅の木はおれが貰ってやろうときめた。
底本:「豊島与志雄著作集 第四巻(小説4[#「4」はローマ数字、1−13−24])」未来社
1965(昭和40)年6月25日第1刷発行
初出:「苦楽」
1947(昭和22)年5月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2008年1月16日作成
青空文庫作成ファイル:
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