たは一|儲《もう》けなさい。私も山の中より町の方が面白《おもしろ》いから、御飯《ごはん》だけ食《た》べさしてくだされば、長くあなたの側《そば》に仕《つか》えて、人形を踊《おど》らせましょう」
 なるほど猿《さる》が中にはいっておれば、人形がひとりでに踊《おど》るのも不思議《ふしぎ》ではありません。甚兵衛は手を打《う》って面白《おもしろ》がりました。
 やがて町の祭礼《さいれい》となりますと、甚兵衛《じんべえ》は一番|賑《にぎ》やかな広場に小屋《こや》がけをしまして、「世界一の人形使い、独《ひと》りで踊《おど》るひょっとこ[#「ひょっとこ」に傍点]人形」という看板《かんばん》をだしました。町の人たちは、あの馬鹿《ばか》甚兵衛がたいそうな看板《かんばん》をだしたが、どんなことをするのかしらと、面白半分《おもしろはんぶん》に小屋《こや》へはいってみました。
 正面《しょうめん》に広い舞台《ぶたい》ができていました。間《ま》もなく甚兵衛は、大きなひょっとこ[#「ひょっとこ」に傍点]の人形を持《も》ちだし、それを舞台《ぶたい》の真中《まんなか》に据《す》えまして、自分は小さな鞭《むち》を手に持《も》ち、人形の側《そば》に立って、挨拶《あいさつ》をしました。
「この度《たび》私が人形をひとりで踊《おど》らせる術《じゅつ》を、神《かみ》から授《さず》かりましたので、それを皆様《みなさま》にお目にかけます。このとおり人形には、なんの仕掛《しかけ》もございません」
 そういって彼《かれ》は、手の鞭《むち》で人形を二、三|度《ど》叩《たた》いてみせました。それから鞭《むち》を差上《さしあ》げていいました。
「歩いたり、歩いたり」
 人形は歩きだしました。
「廻《まわ》ったり、廻《まわ》ったり」
 人形はぐるぐる廻《まわ》りました。
「踊《おど》ったり、踊《おど》ったり」
 人形はおかしな恰好《かっこう》で踊《おど》りました。
「飛《と》んだり、跳《は》ねたり」
 人形は飛《と》び跳《は》ねました。
 見物人《けんぶつにん》は驚《おどろ》いてしまいました。なにしろ人形が独《ひと》りで動《うご》き廻《まわ》るのは、見たことも聞《き》いたこともありません。皆《みな》立ちあがって、やんやと喝采《かっさい》しました。中には不思議《ふしぎ》に思う者もあって、舞台《ぶたい》を調《しら》べてみたり、人形を検査《けんさ》したりしました。けれどももとより、舞台《ぶたい》にはなんの仕掛《しかけ》もありませんし、猿《さる》は人形の中にじっと屈《かが》んでいますので、誰《だれ》にも気づかれませんでした。そして、やはり、甚兵衛《じんべえ》は神様《かみさま》から人形使いの法《ほう》を教《おそ》わったということになりました。さあそれが評判《ひょうばん》になりまして、「甚兵衛の人形は生人形《いきにんぎょう》」といいはやされ、町の人たちはもちろんのこと、遠《とお》くの人まで、甚兵衛の人形|小屋《ごや》へ見物《けんぶつ》に参《まい》りました。

     三

 町の祭礼《さいれい》がすみますと、猿《さる》は甚兵衛に向《むか》って、都《みやこ》にでてみようではありませんかといいました。甚兵衛もそう思ってたところです。田舎《いなか》の小さな町では仕方《しかた》がありません。大きな都《みやこ》にでて、世間《せけん》の人をびっくりさせるのも楽《たの》しみです。それでさっそく支度《したく》をしまして、だいぶ遠《とお》い都《みやこ》へでてゆきました。
 甚兵衛は、都《みやこ》の一番|賑《にぎ》やかな場所《ばしょ》に、直《ただ》ちに小屋《こや》がけをしまして、「世界一の人形使い、独《ひと》りで踊《おど》るひょっとこ[#「ひょっとこ」に傍点]人形」という例《れい》の看板《かんばん》をだしました。すると、甚兵衛の評判《ひょうばん》はもうその都《みやこ》にも伝《つた》わっていますので、見物人《けんぶつにん》が朝からつめかけて、たいへんな繁昌《はんじょう》です。甚兵衛は得意《とくい》になって、毎日ひょっとこ[#「ひょっとこ」に傍点]の人形を踊《おど》らせました。
 ところがある日、甚兵衛《じんべえ》は例《れい》のとおり、「歩いたり、歩いたり、……踊《おど》ったり、踊《おど》ったり、……飛《と》んだり、跳《は》ねたり」などといって、自由自在《じゆうじざい》に人形を使っていますうち、つい調子《ちょうし》にのって、「鳴《な》いたり、鳴《な》いたり」と口を滑《すべ》らせました。けれども人形は一|向《こう》鳴《な》きませんでした。さあ甚兵衛は弱《よわ》ってしまいました。でも一|度《ど》いいだしたことですから、今《いま》さら取消《とりけ》すわけにはゆきません。甚兵衛は泣《な》きだしそうな顔《かお》をして、人形の中の
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