たは一|儲《もう》けなさい。私も山の中より町の方が面白《おもしろ》いから、御飯《ごはん》だけ食《た》べさしてくだされば、長くあなたの側《そば》に仕《つか》えて、人形を踊《おど》らせましょう」
なるほど猿《さる》が中にはいっておれば、人形がひとりでに踊《おど》るのも不思議《ふしぎ》ではありません。甚兵衛は手を打《う》って面白《おもしろ》がりました。
やがて町の祭礼《さいれい》となりますと、甚兵衛《じんべえ》は一番|賑《にぎ》やかな広場に小屋《こや》がけをしまして、「世界一の人形使い、独《ひと》りで踊《おど》るひょっとこ[#「ひょっとこ」に傍点]人形」という看板《かんばん》をだしました。町の人たちは、あの馬鹿《ばか》甚兵衛がたいそうな看板《かんばん》をだしたが、どんなことをするのかしらと、面白半分《おもしろはんぶん》に小屋《こや》へはいってみました。
正面《しょうめん》に広い舞台《ぶたい》ができていました。間《ま》もなく甚兵衛は、大きなひょっとこ[#「ひょっとこ」に傍点]の人形を持《も》ちだし、それを舞台《ぶたい》の真中《まんなか》に据《す》えまして、自分は小さな鞭《むち》を手に持《も》ち、人形の側《そば》に立って、挨拶《あいさつ》をしました。
「この度《たび》私が人形をひとりで踊《おど》らせる術《じゅつ》を、神《かみ》から授《さず》かりましたので、それを皆様《みなさま》にお目にかけます。このとおり人形には、なんの仕掛《しかけ》もございません」
そういって彼《かれ》は、手の鞭《むち》で人形を二、三|度《ど》叩《たた》いてみせました。それから鞭《むち》を差上《さしあ》げていいました。
「歩いたり、歩いたり」
人形は歩きだしました。
「廻《まわ》ったり、廻《まわ》ったり」
人形はぐるぐる廻《まわ》りました。
「踊《おど》ったり、踊《おど》ったり」
人形はおかしな恰好《かっこう》で踊《おど》りました。
「飛《と》んだり、跳《は》ねたり」
人形は飛《と》び跳《は》ねました。
見物人《けんぶつにん》は驚《おどろ》いてしまいました。なにしろ人形が独《ひと》りで動《うご》き廻《まわ》るのは、見たことも聞《き》いたこともありません。皆《みな》立ちあがって、やんやと喝采《かっさい》しました。中には不思議《ふしぎ》に思う者もあって、舞台《ぶたい》を調《しら》べてみたり、人
前へ
次へ
全11ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング