合せの会合は、お前の気持がよくなるまで延しといてもいい。」と彼は云った。
それでも、折角思い立ったことを中途で止すのは、如何にも残念だった。四十になってこれから老衰期にはいるとか、いつ病気で頓死しないとも限らないとか、そんなことは妻に対する単なる言葉の調子で、実際の感じとは縁遠いものであったけれど、十三人の子供を一堂に会合させるということが、この上もなく痛快に思えるのだった。
その痛快だという気持は、二十五六年前まで遡る。
その頃、大学四年の間、津田洋造は一人の恋人を守り続けて、品行方正な学生として通した。然るに、卒業してすぐに結婚しようという希望が、眼の前に迫ってきた間際になって、その恋人……道子から裏切られてしまった。それも、道子の家庭の事情や道子の境遇などからして、止むを得ない成行ではあったろうけれど、彼は一図に失恋の悲痛に馳られて、自殺の決心をした。
彼の家に、無銘ではあるが、長義の作だと伝えられる、白鞘の短刀があった。彼はそれを持出して、甞て道子と二人で甘い一日を過したことのある、江ノ島へ出かけた。勿論その時、どういう方法で何処で死ぬかを、はっきりきめていたわけではな
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