の頃私は、よくこんな気持で生きていられると、自分でも不思議なほどでした。それがだんだん嵩じてきて、自分でも自分が分らないほどになってるうちに、どういうのでしょう、心持がまるで変ってしまったのです。あなたにかぶれたのかも知れませんわ。皆あんなに子供を次から次へと産んでるから、私だってまだ若いし負けているものか、沢山産んでやって、皆の者を見返してやれ……そんな気になったのです。田沢や吉奈の温泉に度々やって頂いたのも、そこの湯にはいると子供がよく出来ると聞いたからでした。そしてこの頃では、毎月初めの七日間は、お地蔵様に日参をしています。それからまだ、いろんなことをしてみました。けれど、駄目なんです。こんなにまでして子供が出来なかったら、自分はどうなるのだろう……と考えてくると、口惜しいやら情ないやらで、じっとしておられなくなります。そこへまたあなたまでが、皆の顔合せをしようなどと仰言るのでしょう。こんな心持で、どうしてお千代やお常の前に出てゆかれましょう。それこそ恥の上塗りですわ。考えつめてると、かっと逆上《のぼせ》てしまいそうです。いくら夫婦の間だって、こんな恥しい話は出来やしません。それ
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