雇おうにも、よい人柄の者はなかなか見つからないようだし、伯父さまがだいたい家政婦というのを嫌いらしい。そこで、奥さんの入院中だけで結構だから、こちらの母に来て貰えまいか、ただ家の中に坐って指図だけしてくれればよい、との頼みだった。
よく考えてみて、家の者とも相談してみよう、そう母は答えたそうであるが、実は駒込の家に行くのが嫌なのである。そして私が代りに行ってくれまいかとの意向であり、先ず吉川に相談してみたのだった。
私は少し驚いた。まあ二週間か三週間、長くて一ヶ月、女中のつもりで行っても構わないが、あちらの人たちとは全く馴染みはないし、多分何の役にも立つまい。母なら、万事先のことを心得てるし、もともと伯父さまからも母への頼みなのである。
吉川も少し当惑してる風だった。
「どうしてお母さまはお嫌なんでしょう。」と私は尋ねてみた。「なにか気まずいことでもおありになるのかしら。」
「そんなことはない筈だ。いつも往き来してるんだからね。」
「忙しいのがお嫌な筈もありませんわね。働くことが好きだと言っていらしたんですもの。」
「むしろ、何にもしないでじっとしてるのが嫌な方だよ。」
「あたし
前へ
次へ
全23ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング