た。雄大にそしてゆったりと聳えて、うすく煙を吐いてるその姿は、朝も昼も晩も、いつ見ても美しいものでした。
登山は、夜の十二時頃出発して、夜明け前に頂上につき、噴火口を覗いて、それから日出を見るのだそうです。そして普通は、小諸へおりるのが順路ですが、野口の主張で、少し嶮岨だが山道をつたって、血の池を見、追分へ出るとのことでした。「こちらから見えるあの岩の間を、降りてくるんだ。明日見ていてごらん、相図をしてみせるから。大丈夫危いことなんかあるものか。たとえあったところで、手足の皮をすりむくくらいだ……。」だけど私は、そんな危険のことなどを考えてるのではありませんでした。私は、噴火口に身を投げて死ぬ人たちのこと、その人たちの心の中などを、考えてるのでした。もしも私が、この病弱な孤独な……孤独という感じを持つのは、私の方がいけないのでしょうかしら……その生活を悲しんで、そして……いろんなことがあって……野口に、一緒に死にましょうと云ったら、野口はどんな顔をするでしょう。自殺者などとは余りにもかけ離れた人種のように、その時私は野口のことを感じました。それが私にとっては、どんなに淋しいことだった
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