んです。」
「だから、これ、軽井沢からのお土産です。」
「軽井沢ですって。」
「ちょっと寄りました。浅間山に登ってきました。」
「そして、別所さんは……。」
「一緒です。」
 別所のことを云い出されても、李は訝る気色もなく、初めから分ってたもののような応対だった。
「浅間の噴火口はみごとです。ほんとによいことをしました。別所君をあの中に叩きこんでやりました。」
「え、噴火口に……。」
「それがよかったんです。元気になって一緒に帰ってきました。」
 正枝は暫く黙っていた。そして案外低い声で云った。
「なぜ断って行かなかったんですか。どんなに気を揉んだか知れませんよ。」
「ひどく急でした。別所君がふいに、行こうと云いました。噴火口にとびこむか、断然あれを思いきるか、どっちかにすると云うんです。だから、見届けについて行きました。」
 正枝はその話についてゆけなくて、ぼんやり李の顔を見戍った。
「御飯をたべさして下さいよ。おなかがすいています。昨夜《ゆうべ》から汽車の中でなんにも食べていません。」
「今あげますよ。それよりか、はっきり話してごらんなさい。あなたの話はちっとも分らない。」
「だっ
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