の原料だという意味らしかった。だが真意は、それ故一層多くの若さと力と真実とが籠ってるものということになるらしかった。同人達は自ら進んで活字拾いにまでやって来た。印刷所は彼等にとってはまた仕事場でもあった。李永泰もその中の一人で、たゞ同人でないのだけが違っており、そして無償で他の端物の仕事もさせて貰える謂わば一種の徒弟だった。李と同様の地位にあって、仕事のこんだ時にはいつでも動員に応ずる代り、日給を貰うことになってる者に、別所次生という青年がいた。李は別所からいろいろの仕事を教わり、別所は李からいろいろの知識を吸収していた。
別所は春日荘に李の室を訪れることもあったし、正枝もその顔を見識っていた。蒼白い痩せた神経質らしい男だった。
丁度四日前、別所と李とは印刷所で一緒に仕事をしていた。そこへ「パルプ」の同人が二人はいって来た。一人は学校を出て就職もせずに遊んでる男で、一人は或る短歌雑誌の編輯を手伝ってる断髪洋装の女だった。二人は別所と暫く話をしていたが、急に別所の顔色が変った。沈黙がきた。男は煙草を吹かし、女はそっぽを向き、それから二人は黙って出て行った。その直後、別所は二三歩後を追
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