れてる由、千謝万謝にたえないとの礼言だった。それと共に、魔除けになるとかいう奇怪な木彫の面を送ってきた。正枝は狐につまゝれたような気持だった。李には両親がなく、その伯父さんから学費も貰ってるとのことである。
「よい伯父で、僕をほんとに愛してくれます。」と李は云った。
正枝は何だかしっくりしない気持で、野性味のある秀才型の李の顔を、しみじみ眺めた。
そのほかいろいろのことで、へんに正体が掴めないながらも、知らず識らず特別の親しみをもった李永泰が、ふいに姿を消したので、正枝は、二日たち三日たつにつれて、気懸りが深くなっていった。平壌より北方の田舎だという伯父の許まで、まさか知らせるわけにもゆかないし、李の少数の知人の中から、特に親しそうな者も見当らないし、処置に困って、ともかくも李の室を検分してみたが、何の手掛りも得られそうになかった。
そこへ、李のことで意外な訪問者があった。
二
李永泰は平素、江原印刷所に出入していた。これは職工が五六人しかいない小さな印刷所で、他の大きな印刷所の下受けの仕事をやったり、また主に端物《はもの》の仕事をしたりしていて、手刷りの機
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