へ行き、崖から落ちて負傷してるところを、虎のために身体の半分ばかり食われてしまった。李の家の人たちが先導となり、非常な危険を冒して、彼の半分の身体を持ち返った。その時、遺族の人から「竹の笛」を貰ったのである。其後、尺八のことを調べてみると、これは昔虚無僧たちにとっては、修道の具であり、また楽器であり、また剣であった。大変よい物が手にはいったと、自分も虚無僧の心を以てあれを大切に持っているのである。
「おばさんにも分るでしょう。」
 正枝はただぼんやり肯いた。作りごとのような話の筋と李の真面目な調子と、ちぐはぐな気持だった。
「よい竹です、見て下さい。」
 李はすぐ立上って、尺八を取りに、急いで二階に上っていった。
 正枝はほっと溜息をついた。それから和やかな微笑を浮べた。



底本:「豊島与志雄著作集 第四巻(小説4[#「4」はローマ数字、1−13−24])」未来社
   1965(昭和40)年6月25日第1刷発行
初出:「文芸春秋」
   1938(昭和13)年12月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2009年1月12日作成
青空文庫作成ファイル:
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