怒っていらっしゃるようなんです。
 落付かない、いらいらした、今にも破裂しそうなものが、あたしにも伝わってきて、じりじりと、あぶない瀬戸際におしつめられてるような気持でした。そんなこと、あたしには初めてなんです。ほかの人はどうかしらと思って、見廻してみると、一流のちゃんとしたねえさんで、旦那のほかに二三人の岡惚をもってるのがあったり、お酌あがりの娘さんで、ちょいちょい浮気をしてるのがあったり、自由な身でもないのに、一人のひとを守ってるのがあったり、さまざまでいて、そしてみんな、朗かに落付いてるようでした。こんなに困って苦しんでるのは、あたし一人なのかしら。そう思って、ふとしたきっかけから、静葉さんにたずねてみました。以前はそうとう莫連をした人で、今では、島村さんという旦那とも岡惚ともつかない一人のひとを守って、すっかり堅くなって、そのために苦労をしながらも、それがとても大っぴらで朗かで、ちょっと変ってるのでした。実はあたし、困っちゃったの……とそういう風にきりだしましたが、自分でもはっきりしないので、先がつかえて、みんな平気で浮気をしたりなんかしていて、あれでいいのかしらと、そんなこと
前へ 次へ
全20ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング