成の麗質で、典型的な美人だったらしい。若くて夫に死なれ、その未亡人生活には幾人かの男性が点綴されたらしい。だがそれは畢竟、愛情の問題ではなく、富裕な美しい未亡人の火遊びに過ぎなかったようだ。そして晩年、彼女は久子を熱愛し、久子も彼女を恋い慕った。同性愛を超えた深い情愛だった。清田のおばさまが肺を病んで、鎌倉の海岸に転地してから、二人は始終逢ってるわけにはゆかなくなったが、そのために愛情は一層深まった。久子が訪れてゆくと、おばさまの子供も看護婦も自然と席を外して、二人きりで語り合うことが多かった。臨終の時には、久子は死ぬ思いで馳けつけた。おばさまはもう意識が朦朧としていた。
「おばさま、久子です。久子よ……。」
 おばさまは痩せ細って、首が折れそうで、頬が蝋のように白かった。睫毛の長い眼を、ちょっと開きかけて、また閉じた。そして囁くように言った。
「久子さん……。」
「久子よ、お分りになって。」
 おばさまの喉のところで、へんな音がした。それからひっそりとなった。暫くたって、囁くような声がした。
「久子さん……。」
「ここにいますよ。おばさま、お分りになって。」
「手を握って。」
 おば
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