の多少の曲折はあろうとも、全体としては、堂々と真直に進展してゆくことが出来る。
 方向は必然に一の目的を所有する。そしてこの目的なるものは、人の生活に於ては、手近なものから最終のものに至るまで、無数に存在し得る。云わばその目的は、一定の方向の――無限の距離まで延びている一定の方向の、所々に散在する標石の如きものである。今日の目的があり、明日の目的がある。そして最終のものは、所謂理想である。理想は如何に高くても遠くても構わない。到達出来ないものであっても構わない。ただその理想に至るまでの、無限の道程を連結すべき標石が、所々に散在しておればよい。
 斯くて、動かすべからざる一定の方向があり、その無限の距離の終端に理想の高塔が聳え、それに至るまでの間処々に、大小幾多の標石が立っている、そういう生活こそ、本当にしっかりした力強い輝しい生活である。そういうものを持たない生活は、盲者の生活であり、虫けらの生活である。
 右のことさえしっかりしておれば、人は如何なる場合にもまごつくことがなく、常に堂々と進んでゆくことが出来る。

 生活の方向は、自然に定まるものではなくて、生活せんとする者が――当の
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