さんの姿を、色艶の悪いその顔を、仰ぎ見るようにした、助けを求めるような心で、百円を与えたことをはっきり意識した心で、そして……その返済を求むるような心で。
 壮助は座に堪えられないような気がした。そして病室に入《はい》ると、光子が急に大きな眼を開いて彼の顔を見た、そして口元に無心な微笑を漂わした。その側に坐って、彼は顔をそむけて涙をはらはらと落した。
 看護婦が座を立った時、光子は急に壮助の方に顔を向けた。
「津川さん、なぜ泣いたの。」
 壮助は光子の眼をじっと見返した。そして頬の筋肉がぴくぴく震えてくるのを感じた。
「なぜ泣くの。」光子の眼附がまたそう云った。
「光ちゃんがね、早くよくならないからつい悲しくなったのだよ。」
「あたしそんなに悪くはないわ。」
「ですから早く滋養分を取って元気をつけなければね……。」
「ええ、」と光子は頭を軽く動かした。「だから辛抱して食べてるのよ。」
 その時光子は急に起き上ろうとするようであった。壮助はその意味がはっきり分った。で枕頭の瓶をとりあげて見せた。
「これ?」
「ええ。」
 それはソップの瓶であった。中のものはすっかり飲みつくされていた。

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